大阪高等裁判所 昭和55年(ネ)1916号 判決 1981年2月25日
控訴人 金村柳権こと 金柳権
右訴訟代理人弁護士 木田好三
同 藤田洋子
被控訴人 金井勝・落合慎太郎・大本勝之こと 金勝
主文
一、原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。
二、被控訴人は控訴人に対し、金七三〇万円およびこれに対する昭和五五年八月二八日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。
三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
四、この判決の第二、三項は仮に執行することができる。
事実
一、控訴人は、主文第一ないし三項と同旨の判決ならびに仮執行宣言を求めた。
被控訴人は所在不明のため公示送達による呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭せず、書面の提出もしない。
二、当事者双方の事実上の陳述および証拠の関係は、原判決事実欄記載のとおりである(但し、別表約束手形目録(6)につき、振出人欄「被告」とあるを「大本勝之」に受取人欄「被告」とあるを「金井勝」に改め、請求原因1の次行に「なお大本勝之、金井勝は、被控訴人金勝の別称である。」を附加する)から、これを引用する。
理由
一、別紙約束手形目録(6)記載の約束手形(以下本件(6)の手形という)を、被控訴人が振出したこと、控訴人が現に右手形の所持人であり、これを満期に支払のため支払場所において呈示したこと、大本勝之、金井勝はいずれも控訴人の別称であることは、いずれも原審における控訴本人尋問の結果、同結果により真正に成立したものと認める甲第六号証の一ないし三、第八、九号証によりこれを認めることができる。
右事実によると、本件(6)の手形はいわゆる自己受手形であると認められる。ところで約束手形の振出人が自己を受取人として支払を約することは右手形が右当事者の手許にとどまる限り無意味であるというべきであるけれども、手形は本来他に譲渡されることを予定した有価証券であり、自己受の約束手形が第三者に裏書譲渡された場合には、同一人が振出人、裏書人の別資格で第三者に対しそれぞれの義務を果たし得るものと解することができ、したがって自己受手形の振出も有効であると解するのが相当である(殊に、本件(6)の手形のように同一人が振出人、裏書人に異なる名義を用いて自己宛手形を振出した場合には、手形面では振出人、受取人は別人格とみられるから、右手形を取得した第三者に対し自己受手形の故に支払を拒絶しうるとすれば、事情を知らない第三者に対し不測の損害を与えることになる)。
二、以上の次第で、本件(6)の手形の振出は有効であり、振出人たる被控訴人は控訴人に対し、右手形金七三〇万円とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五五年八月二八日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務があり、本訴請求中右支払を求める部分も理由がある。
よって、原判決中控訴人の右請求を棄却した部分は失当であって、本件控訴は理由があるから原判決中控訴人敗訴部分を取消し、右部分につき控訴人の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 谷野英俊 裁判官 丹宗朝子 西田美昭)